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賢治参考図書

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    21年は一市は花巻村です。

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2006-11-24

悲惨

  [ 鉛いろした月光のなかに ]

 鉛いろした月光のなかに

 みどりの巨きな犀ともまがふ

 こんな巨きな松の枝が

 そこにもここにも落ちているのは

 このごろのみぞれのために

 上の大きな梢から

 どしゃどしゃ欠いて落とされたのだ

 その松なみの巨きな影と

 草地を覆う月しろの網

 あそこの凍った河原の上へ

 はだかのまゝの赤児が捨ててあったので

 この崖上の部落から

 嫌疑で連れて行かれたり

 みんなで陳情したりした

 それもはるか昔のやう

 それからちゃうど一月たって

 凍った二月の末の晩

 誰か女が激しく泣いて

 何か名前を呼びながら

 あの崖下を川へ走って行ったのだった

 赤児にひかれたその母が

 川へ走っていくのだらうと

 はね起きて戸をあけたとき

 誰か男が追ひついて

 なだめて帰るけはひがした

 女はしゃくりあげながら

 凍った桑の畑のなかを

 こっちへ帰って来るようすから

 あとはけはいも聞こえなかった

 それさへもっと昔のようだ

 いまもう雪はいちめん消えて

 川水はそらと同じ鼠いろに

 音なく南へ滑って行けば

 その東では五輪峠のちゞれた風や

 泣きだしそうな甘ったるい雲が

 へりはぼんやりちゞれてかゝる

 そのこっちでは暗い川面を

 千鳥が啼いて溯っている

 何べん生れて

 何べん凍えて死んだよと

 鳥が歌っているようだ

 川かみは蝋のやうなまっ白なもやで

 山山のかたちも見えず

 ぼんやり赤い町の火照りの下から

 あわたゞしく鳴く犬の声と

 ふたゝびつめたい破調にかはり

 松をざあざあ云はせる風と

 この詩は、小沢俊郎氏が『詩篇「夜」鑑賞』で読まれている。(四次元126号)

この詩篇で、「春と修羅 第三集」をわたくしは終りにしたい。どこまでもぬかる路にはまって身も心も「悲惨」その者である。先にかすかな光が観えたかと思えども、あまりにも悲しいことが詠まれている賢治が、やりきれなくなるのである。

    つづく

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